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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)12780号 判決

原告

福岡悌三

被告

有限会社大沢氷業

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金三二万五、〇〇〇円およびこれに対し、被告有限会社大沢氷業は昭和四二年一二月二日以降、被告石井一男は同月五日以降各支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは各自原告に対し金一〇〇万円およびこれに対し被告有限会社大沢氷業は昭和四二年一二月二日以降、被告石井一男は同月五日以降各支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四一年七月二一日午後五時四〇分頃

(二)  発生地 東京都千代田区内幸町二丁目三番地先路上

(三)  被告車 自家用軽四輪貨物自動車

運転者 被告 石井一男(以下被告石井と略称)

(四)  被害者 原告 歩行中

(五)  態様 横断歩行中の原告の右背部腰部に被告車左前部を衝突させ転倒せしめた。

(六)  被害者原告は治療約二ケ月を要する第一〇胸椎圧迫骨折等の傷害を負つた。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告有限会社大沢氷業(以下被告会社と略称)は、加害車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告石井は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

同被告は、前記場所を内幸町方面から銀座方面に向い進行中、前方を横断歩行中の原告に気づかず、原告の右背部腰部に被告車左前部を衝突させて転倒させたもので被告石井には前方不注視、安全不確認の過失がある。

三、(損害)

(一)  治療費等

1、治療費 二万五、〇〇〇円

原告は、本件傷害の治療のため、ギブス床、コルセットを着用し、又数回に亘り患部周辺のレントゲン写真を撮影し、その費用は二万五、〇〇〇円を遙かに上廻るが、そのうち二万五、〇〇〇円を請求する。

2、マッサージ代 一〇万円

原告は、本件受傷後、医師の勧告によりその治療のため連日又は隔日にマッサージを受け、現在までその回数は少くとも三〇〇回以上になるが、その費用は一回五〇〇円で、合計一五万円以上になる。そのうち、一〇万円を請求する。

3、電子治療器代 四万円

原告は、この種症状に効能があると云われる日本電子治療器学会製の電子治療器(商品目「イトーレーター」)一台を八万六、〇〇〇円で購入し、目下これを使用中であるが、そのうち四万円を請求する。

4、温泉治療代 四万円

原告は医師の勧告により、昭和四二年三月青森県大鰐温泉に一二日間滞在して温泉療養に努めたのをはじめ、数回に亘つて温泉療養を行つたが、その費用は十数万円に上る。そのうち四万円を請求する。

5、交通費 一万五、〇〇〇円

原告は、本件交通事故のため、その後の九州方面への商用旅行を中止して、翌二二日原告の子息福岡壮一の付き添いの下に、羽田より全日航機で函館へ戻つたが、この運賃は合計二万一、六〇〇円で、原告が健康体で列車で帰つた場合の乗車賃約五、〇〇〇円を控除すると、その差は一万五、〇〇〇円となる。

(二)  慰藉料

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み七〇万円が相当である。

原告は、本件傷害のため療養するところとなり、今日未だ腰痛ないし背痛を感じている。又、株式会社本間鉄工場専務取締役の要職にあり、意の如く欠勤もできず、病苦をおして職務を執行して来たものである。

(三)  弁護士費用

以上により、原告は九三万円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、東京弁護士会所定の報酬範囲内で、手数料および成功報酬として原告は金二〇万円を第一審判決言渡後に支払うことを約したので、同額の債務を負担したが、そのうち七万円を請求する。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告は金一〇〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会社は昭和四二年一二月二日、被告石井は同月五日)以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告らの事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)、(六)は知らない。

第二項中(一)は認め、(二)の被告石井の過失は否認する。

第三項中(一)は不知、(二)の事実は不知、慰藉料額は過大である。

二、(過失相殺の抗弁)

事故発生については被害者原告が右側をよく見ないで横断した過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五、抗弁事実に対する原告の認否

原告の過失は否認する。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

第一項中(一)ないし(四)は当事者間に争がない。〔証拠略〕によれば、被告石井は横断歩行中の原告の右背部腰部に被告車左前部を衝突させて原告を転倒させたことが認められ、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により右背部打撲、右肘挫創、第一〇胸椎圧迫骨折の傷害を受け、事故直後および翌日の二日間、日比谷病院に通院し、更に昭和四一年八月二日から同四三年一〇月五日までの間に八回函館五稜郭病院に通院したことが認められる。

二、(責任原因)

(一)  被告会社が本件事故当時、被告車の運行供用者であつたことは当時者間に争がない。

(二)  被告石井の過失について判断する。〔証拠略〕によれば、本件事故現場は、東西に通ずる幅員七・〇米のアスファルト舗装道路で、東へ向うことだけが許される一方通行道路で見透しはよく、時速制限は四〇粁に制限されていること、事故当時路面は平坦で乾燥していたこと、被告石井は時速約三五粁で進行中、斜め前方七・一米の地点に初めて原告を発見し、原告が横断し始めたことを見て居りながら、原告が立ち止るであろうと速断し、約三米進行して危険を感じてブレーキを踏みハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが、間に合わず原告に前記の如く衝突して転倒させたことが認められ、前方および左方を充分に注視せず、歩行者を発見した際に直ちに制動措置をとらなかつた過失が認められる。

(三)  他面において、右証拠によれば被害者たる原告も、横断に際して、左側の安全を確認したのみで右側の安全を確認することなく漫然と横断した過失が認められる。

右事実によれば、原告と被告石井の過失割合は、二対八と認めるのが相当である。

三、(損害)

(一)  治療費等

1、治療費

〔証拠略〕によれば、原告は本件傷害の診断治療のため、ギブスベット、コルセットを着用しその代金二万円、レントゲン撮影費一万円程度を必要としたことが認められ、以上の支出は、本件交通事故と相当因果関係のある損害と認められる。

2、マッサージ代

〔証拠略〕によれば、原告はマッサージを約三〇〇回行なつたのであるが、マッサージは医師からすすめられたものではなく周囲の人々のすすめであるに過ぎないことが認められるので、マッサージに要した支出は、本件交通事故と相当因果関係にあるものとは認められない。

3、電子治療器代

〔証拠略〕によれば、電子治療器は清水建設の重役からすすめられたことが認められ、医師の勧告があつたものとは認められないから、その購入費も本件交通事故と相当因果関係があるものとは認められない。

4、温泉治療代

〔証拠略〕によれば、原告は医師の勧告もあつて、青森県大鰐温泉で二週間療養したほか、函館市内の湯の川温泉にも赴いたこと、費用は合計約五万円であることが認められるが、函館にも温泉があるにも拘らず大鰐温泉に出かける必要性についての立証はなく、結局、右のうち二万円だけが本件交通事件と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

5、交通費

〔証拠略〕によれば、原告は本件交通事故のため九州方面への商用旅行を中止し、急拠原告の息子福岡壮一の付添のもとに飛行機で函館へ戻つたこと、そのために、列車で帰れば約五、〇〇〇円ですむところ、二人の飛行機代二万一、六〇〇円を支出したことが認められるが、〔証拠略〕によれば原告の傷害の程度は付添が必要な程でなかつたことが窺われ、本件前立証によつても付添が必要であつたことは認められない。したがつて、一人分の飛行機代一万〇、八〇〇円と列車の場合の費用との差額五、〇〇〇円を以て事故と相当因果関係のある損害と認める。

6、以上の損害の合計は五万五、〇〇〇円であるが、前記過失を考慮すると、被告らに損害賠償を求め得る金額は、四万五、〇〇〇円を以て相当と認める。

(二)  慰籍料

〔証拠略〕によれば、原告は事故の翌日函館へ帰り、その翌日頃函館市立病院で診察を受け、昭和四二年八月二日に五稜郭病院に行くまでは自宅で寝ていたことコルセットは昭和四二年秋頃まで使用していたこと、ギブスベッドは昭和四三年七月現在なお使用していることが認められる。右事実と前記の如き事故の態様、過失割合傷害の部位程度その他諸般の事情を考慮すると、原告の慰藉料としては二五万円を以て相当と認める。

(三)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告主張の委任契約の成立が認められるが、本件訴訟の経緯、殊に訴額と認容額等諸般の事情を総合すると、被告らに賠償を求め得べき金額は、三万円を以て相当と認める。

四、(結論)

よつて、原告の本訴請求は、前項(一)ないし(三)の合計三二万五、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日(被告会社は昭和四二年一二月二日、被告石井は同月五日)以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める譲渡で理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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